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ChatGPTで『考えなくなった』社員をどう育てるか


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〇AI導入で生産性が下がった企業の共通点

「ChatGPT導入後、若手の企画書が明らかに劣化しました」

ある製造業の人事部長が、打ち合わせの最後にぽつりとこう打ち明けました。AIツールを全社導入して3ヶ月。当初は業務効率化を期待していたのに、むしろ若手社員の「考える力」が急激に低下しているというのです。

「提案書はそれっぽく整っているんです。でも、自社の状況をまったく理解していない。質問すると『ChatGPTがそう言ったので』と答える。過去のデータや事例を調べることもしなくなった」

人事部長の表情は暗く、私に問いかけました。「便利なはずのツールが、社員をダメにしているんでしょうか…」

実は、この悩みを抱えている企業は少なくありません。しかし同時に、ChatGPT導入後に「生産性が3倍になった」と喜んでいる企業もあるのです。

同じツールを使っているのに、なぜここまで差がつくのか?

答えは意外なところにありました。それは「何を聞いているか」です。


〇対照的な2人の社員

その製造業の企業で、私は興味深い観察をしました。同じ課題に取り組んだ2人の社員の、あまりにも対照的なアプローチです。


入社3年目のBさんは、生産ラインの効率化という課題を与えられました。彼はすぐにChatGPTを開き、「生産ラインの効率化案を5つ教えて」と入力しました。

数秒後、画面には整然とした5つの改善案が表示されました。作業手順の標準化、設備配置の最適化、予防保全の実施、多能工化の推進、ボトルネック工程の改善。Bさんはそれをそのまま企画書にコピーし、上司に提出しました。

結果は惨憺たるものでした。現場の管理者からは「机上の空論だ」と一蹴され、企画は却下。Bさんは「でもChatGPTがこう言ったんです」と戸惑うばかりでした。


一方、入社10年目のAさんは、同じ課題にまったく違う方法で取り組んでいました。

Aさんもまた、ChatGPTを開きました。しかし最初の質問は違いました。

「生産ラインの効率化を考えてるんだけど、まず何を確認すべきだと思う?」

ChatGPTは答えました。現状のボトルネック特定、稼働率データの分析、作業者からのヒアリング…。

Aさんは続けて聞きました。「なぜボトルネックの特定が最初なの? その理由を教えて」

ChatGPTは全体最適の観点から説明しました。Aさんはさらに質問を重ねます。

「今、どんな前提で話してる? うちの工場は設備が古くて、更新予算も限られてるんだけど、その場合はアプローチを変える必要がある?」

この対話を30分ほど続けた後、Aさんは自分の頭で改善案を組み立て始めました。最終的に提案した内容は、ChatGPTの最初の回答とはまったく違うものでした。しかし、そこに至るまでの「思考のプロセス」は、ChatGPTとの対話によって磨かれていたのです。

現場からの評価は高く、改善案は即座に採用されました。


この2人の違いは何だったのか?

Bさんは「答え」を求めました。Aさんは「思考のプロセス」を確認しました。そして、この差こそが、AI時代に「使える人材」と「使えない人材」を分ける決定的な違いなのです。


〇9割の人が気づいていない本質

実は、多くの人がChatGPTを「答えマシン」だと思っています。質問を入力すれば、正しい答えが返ってくる。まるで高性能な検索エンジンのように。

しかし、これは大きな誤解です。

ChatGPTの本当の価値は、答えを出すことではありません。「思考を深めるパートナー」として使うことにあるのです。

優秀な人材がChatGPTに聞いているのは、「答えは何?」ではありません。「どうやって考えたの?」「なぜそう判断したの?」「他にどんな選択肢を考えた?」「今、どんな前提で話してる?」なのです。

これは、新人が優秀な先輩に教えてもらうときと同じです。「答えだけ教えてください」と言う新人と、「なぜそう考えるんですか?」と聞く新人では、成長速度がまったく違います。ChatGPTも同じなのです。


〇介護施設で起きた2つの導入事例

この違いは、私が支援した2つの介護施設の事例でさらに明確になりました。

どちらの施設も、紙ベースの記録業務をデジタル化したいと考えていました。そして、どちらの施設の担当者もChatGPTに相談しました。


失敗した施設の物語

最初の施設の担当者、30代の事務職員Cさんは、ChatGPTに「記録システムの導入手順を教えて」と質問しました。

ChatGPTは答えました。要件定義、システム選定、カスタマイズ、研修実施、本番運用開始。標準的な導入手順です。

Cさんはこの手順に従いました。システムを選定し、カスタマイズを依頼し、研修を実施し、本番運用を開始しました。

しかし、3ヶ月後、現場は混乱していました。60代のベテラン職員たちがタブレット操作についていけず、結局、紙とデジタルの二重入力が続く状態に。夜勤スタッフからは「前の方が良かった」という声が相次ぎました。

Cさんは困惑しました。「ChatGPTの言う通りにやったのに、なぜうまくいかないんだろう…」


成功した施設の物語

一方、別の施設の担当者、40代の主任Dさんは、違うアプローチを取りました。

最初の質問は「記録システム導入で失敗する原因って何だと思う?」でした。

ChatGPTはいくつかの失敗要因を挙げました。スタッフの抵抗感、操作の複雑さ、業務フローの急激な変更。

Dさんは続けて聞きました。


「今、『標準的な導入方法』を前提に答えてるよね? でも、うちはIT操作が苦手な60代スタッフが多いんだけど、その場合は考え方を変える必要がある?」


ChatGPTの回答が変わりました。段階的導入の重要性、紙との併用期間、操作に慣れたスタッフをサポート役として配置する方法…。

Dさんはさらに質問を重ねました。


「その『段階的』って、具体的にどういう基準で次のステップに進むか判断すればいい?」


ChatGPTは答えました。操作ミス率、平均記入時間、スタッフの不安度などの数値で評価すること。

この対話を通じて、Dさんは「自分の施設に合った導入計画」を組み立てていきました。

最初の1ヶ月は、朝の申し送り記録だけをタブレット化。紙の記録も並行して続けました。操作が得意な30代職員2名を「サポート役」に指名し、困ったら気軽に聞ける体制を作りました。

2ヶ月目、スタッフの8割が「タブレットの方が楽だ」と感じたタイミングで、次の記録項目を追加。紙との併用は継続しました。

4ヶ月目、ようやく全面的にデジタル化。この頃には60代のベテラン職員も慣れており、「便利になった」という声が多数を占めていました。

Dさんが最終的に実施した導入方法は、ChatGPTの最初の回答とは7割ほど異なる内容でした。しかし、対話を通じて「なぜそうするのか」を理解し、自分の施設の実情に合わせて調整できたのです。


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〇なぜ人は「答え」を求めてしまうのか

ここで疑問が湧きます。なぜ多くの人が「答え」を求めてしまうのか?

一つは、人間の本能です。早く楽に正解がほしい。これは誰にでもある自然な欲求です。

もう一つは、教育の影響です。学校では「問題→正解→終わり」というサイクルで学んできました。でも、ビジネスは違います。「課題→仮説→検証→修正→新たな仮説→…」という終わりのないサイクルです。

多くの人が「学校モード」でChatGPTを使っているのです。


さらに、ChatGPTの即答性も影響しています。Google検索なら、複数のサイトを見て、情報を比較して、自分で判断するプロセスが自然と入ります。でもChatGPTは、質問すれば即座に整った回答が返ってくる。「これでいいか」と思考停止しやすいのです。


しかし、これは使い方次第で逆転できます。むしろ、ChatGPTの即答性を「思考のスピードアップ」に活用できるのです。


〇思考を深める3つのステップ

では、具体的にどう使えばいいのか? 3つのステップで解説します。


ステップ1: 「なぜ?」を3回聞く習慣

最初のステップは、とてもシンプルです。ChatGPTから回答を得たら、必ず「なぜ?」と聞く。そしてもう一度「なぜ?」と聞く。さらにもう一度「なぜ?」と聞く。


ある企業の新人研修で、この訓練を導入しました。課題は営業資料の改善です。

新人が最初に聞きます。「この営業資料の改善案を教えて

ChatGPTは5つの改善案を提示します。新人は、ここで終わらせません。


「なぜその改善が効果的だと考えたの?」


ChatGPTは理由を説明します。視覚的な訴求力、情報の構造化、顧客目線での記述…。

新人はさらに聞きます。


「今、どんな顧客を想定して答えてる? うちのターゲット層は地方の中小企業経営者なんだけど、その場合は考え方変わる?」


このやり取りを通じて、新人は「一般論」を「自社の営業資料」に変換していく過程を学んでいきます。

この研修を導入した企業では、3ヶ月後に驚くべき変化が起きました。「ChatGPTに丸投げする新人」が一人もいなくなったのです。全員が自然と、対話を通じて思考を深める習慣を身につけていました。


ステップ2: 「今、何考えてる?」を確認する

次のステップは、ChatGPTの「思考の前提」を確認することです。

私が支援したある介護施設で、Kintoneを使った勤怠管理システムを構築することになりました。担当者の若手職員が、ChatGPTに相談しました。


「Kintoneで勤怠管理システムを作りたいんだけど、今、どういう機能を想定して考えてる?」


ChatGPTは答えました。「一般的には、打刻機能、休暇申請、残業管理、シフト管理、給与計算連携などを想定します

担当者は聞き返しました。


「それって大企業向けの発想だよね? うちは従業員20名の小規模施設なんだけど、その前提だと何を変える必要がある?」


ChatGPTの回答が変わりました。「小規模施設の場合、優先順位が変わります。複雑な給与計算連携よりも、シフトと申し送り記録の連携、QRコードなどでの簡易打刻、勤務実績の可視化が重要です

担当者はさらに対話を重ねました。


「その構成で、3ヶ月後に起きそうな問題は何?」


このやり取りを30分ほど続けた結果、完成したKintoneアプリは、ChatGPTの最初の提案とは大きく異なるものになりました。しかし、現場のスタッフからは「使いやすい」と高評価。導入後の定着率は95%を超えました。


ここで起きているのは、ChatGPTに「思考の叩き台」を出してもらい、それを「壁打ち相手」にして思考を深めるプロセスです。自分一人で考えるよりも速く、しかも多角的な視点を得られます。


ステップ3: 自分の思考をChatGPTに見せる

最終段階は、AIを「思考の鏡」として使うことです。

ある製造業のベテラン技術者が、こんな使い方をしていました。


「今、生産ライン改善を検討中なんだけど、私は『ボトルネックは工程3の検査工程』と考えてる。この仮説、どういう点を検証すべき?」


ChatGPTは検証ポイントを列挙しました。稼働率データ、前後工程の待ち時間、不良品発生率との相関…。

技術者は続けて聞きました。


「データでは確かに工程3が遅いんだけど、『本当の原因』は別にある可能性ってある? どんな見落としが考えられる?」


ChatGPTは答えました。「よくある見落としとして、前工程からの不良品流入、検査基準の曖昧さ、設備メンテナンス不足による精度低下などが考えられます

この指摘を受けて、技術者は改めて調査しました。すると、本当の原因は工程3ではなく、前工程の部品供給の不安定さだったのです。


もし最初の仮説のまま改善を進めていたら、時間とコストを無駄にしていたでしょう。ChatGPTとの対話が、思考の盲点を照らし出したのです。


〇組織として仕組み化する

個人の習慣を、組織の文化に変えていくにはどうすればいいか?

ある企業では、企画提案用のKintoneアプリに工夫を加えました。通常の企画書の項目に加えて、こんな項目を追加したのです。


「あなたが最初に考えた案」「ChatGPTとの対話ログ」「対話を通じて変わった点」「最終的な判断理由」。


この仕組みの素晴らしい点は、部下が「どう考えたか」が上司に見えることです。

ある若手社員の提案を見た上司は、対話ログを読んでこう言いました。


「ChatGPTへの最初の質問が抽象的すぎるな。もっと具体的な状況を伝えれば、もっと良い対話ができたはずだ。次はこう聞いてみたらどうだ?」


具体的なフィードバックができるようになったのです。

この仕組みを導入して半年後、若手社員の企画提案の質が劇的に向上しました。ChatGPTの導入前より、むしろ「深く考える力」がついたのです。


評価基準も変わりました。以前は「良い答えを出したか」で評価していました。今は「どう考えたか」で評価しています。どんな問いを立てたか。どう対話を深めたか。自分で判断した根拠は何か。

このように「プロセスを可視化・評価する」ことで、組織全体に「考える文化」が育っていきます。


〇AI時代の本質

ある日、人事部長から連絡がありました。あの「ChatGPT導入で若手がダメになった」と嘆いていた人事部長です。


「あれから3ヶ月、驚くべき変化が起きています」


声が弾んでいました。

「若手に『なぜ?』を3回聞く訓練をさせたんです。最初は嫌がっていましたが、1ヶ月もすると自然とできるようになった。今では、ChatGPTを使う前より深く考えるようになりました。先日の企画会議では、新人が『ChatGPTはこう言いましたが、現場の状況を考えるとこう修正すべきだと思います』とプレゼンしたんです。素晴らしかった」

AIは道具です。包丁と同じです。使い方を間違えれば危険ですが、正しく使えば料理の幅が広がります。

ChatGPTは「答えマシン」ではありません。「思考を深めるパートナー」なのです。

優秀な人材は、AIに答えを求めません。AIに「なぜ?」「どう考えた?」を聞きます。

明日から始めてください。ChatGPTに質問したら、必ず「なぜ?」を3回聞く。

たったこれだけで、あなたの社員の思考の質が変わります。そして、AI時代に「本当に強い組織」が生まれていくのです。

K&Aプロジェクトでは、AI時代の人材育成とDX推進を支援しています。ChatGPTやKintoneを活用した組織づくりにご関心がある方は、お気軽にお問い合わせください。


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