230年前の江戸に、中小企業の勝ち筋があった~大河ドラマ『べらぼう』蔦屋重三郎に学ぶ、3つの発想転換
- 吉田 薫

- 3 日前
- 読了時間: 9分

「これ、Amazonじゃん!」
2025年大河ドラマ『べらぼう』、見てますか?
先週、クライアントの製造業経営者とこのドラマの話になったんです。そしたら彼が突然こう言いました。
「これ、完全にAmazonじゃないですか」
主人公の蔦屋重三郎。江戸時代の本屋さん…いや、正確には「版元」という出版業者です。
「蔦屋って、自分で本を書いてないんですよ。絵師を集めて、作家を育てて、書店をネットワーク化して。完全にプラットフォームビジネスじゃないですか!」
その瞬間、私も気づきました。蔦屋重三郎がやっていることって、現代のビジネスモデルそのものだ。しかも230年前に。
DXコンサルタントとして中小企業の経営改革を支援してきた私が、江戸時代の本屋さんから学ぶことになるとは。
でも、学びました。しかも、めちゃくちゃ実践的な内容でした。
今日は、中小企業が今すぐ使える「蔦屋流・発想転換の技術」を3つに絞ってお話しします。
〇発想転換1:「何を売るか」より「何をつなぐか」
本屋なのに、本を売らない?
蔦屋重三郎を「本屋の主人」だと思ってる人、多いですよね。違うんです。
普通の本屋:「良い本を仕入れて、店頭に並べて、売る」
蔦屋:「絵師を発掘して、作家を育てて、彫師や摺師とつないで、書店網を組織化して、読者に届ける」
彼は本を売る人じゃなくて、人と人をつなぐ人だったんです。
喜多川歌麿って知ってます?超有名な浮世絵師。でも蔦屋に出会う前は無名でした。蔦屋が才能を見抜いて、新ジャンルを開拓させて、売る仕組みを作った。
歌麿が売れれば蔦屋も儲かる。書店も潤う。読者も喜ぶ。みんなハッピー。これがプラットフォームです。
町工場が「つなぐ人」になった話
実はこれ、中小企業でもできるんです。
ある町工場の話。従業員15名、金属加工をやってる会社。社長は長年「うちの技術で勝負だ!」って頑張ってました。でも正直、大手には敵いません。受注は減る一方。
ある日、社長が気づいたんです。「俺、地域の加工屋のこと、めちゃくちゃ詳しいんだよね」
A社は板金が得意。B社は溶接が得意。C社は精密加工が得意。みんな小さいから単独では大きな仕事が取れない。
社長は発想を転換しました。「自分は作る人じゃなくて、つなぐ人になろう」
地域の工場10社をネットワーク化。顧客から依頼が来たら最適な工場に振り分ける。複数工程が必要なら、複数社をコーディネート。自分は調整役としてマージンをもらう。
結果、どうなったか。
大手企業から「あの社長に相談すれば何とかなる」って言われるようになりました。ネットワーク全体で受注が増えて、自社も新しい収益源を得ました。
デザイン事務所も同じ発想で変わった
従業員5名のデザイン事務所。小さいから大規模案件に対応できない。でも社長はフリーランスのデザイナーを100人以上知ってる。
「自分はデザイナーのプロデューサーになろう」
そう決めて、案件に応じて最適なチームを編成するようになりました。結果、以前は断っていた大規模案件も受注できるようになった。デザイナーたちも安定受注。
中小企業向けチェックリスト
□ 自社は「誰と誰」をつなげられるか?
□ 業界内で自社がよく知っている「人・会社」は?
□ 困っている人と、解決できる人を知っているか?
□ 自分がいなくても、そのつながりは生まれるか? → Noなら、そこにビジネスチャンスがある
〇発想転換2:商品じゃなくて「体験」を売る
江戸時代の握手会ビジネス
ドラマで衝撃的だったシーン。蔦屋が歌麿に看板娘の浮世絵を描かせたんです。絵が江戸中で評判になって、男性客が「その娘に会いたい」と店に殺到した。
茶屋なら茶を買い、団子屋なら団子を買って、看板娘と言葉を交わす。また明日も来る。
見た瞬間、私は思いました。「これ、AKBの握手会じゃん!」
江戸の男性客、本当に団子が食べたかったんでしょうか?違いますよね。看板娘と話したかった。
団子 = 食べ物 じゃなくて、 団子 = 会話のチケット なんです。
部品屋さんが「パートナー」になった
ある部品メーカー、従業員30名。価格競争で疲弊してました。
社長が考えました。「お客さん、本当に部品が欲しいのかな?」
違ったんです。お客さんが欲しいのは「課題の解決」。部品はそのための手段でしかない。
社長は事業の意味を変えました。
従来:「部品を売る会社」
新定義:「お客さんの課題解決パートナー」
見積もり段階から変えました。単に価格を出すんじゃなくて、「こういう課題がありますよね。こうすれば解決できますよ」って提案する。
納品時には使い方を説明。アフターフォローで次の課題を聞き出す。定期訪問で信頼関係を作る。
何が変わったか。価格で選ばれなくなったんです。「あの会社に相談したい」で選ばれるようになった。単価は上がり、リピート率も上がり、利益率が大幅改善。
商品(部品)は同じ。でも体験が変わったんです。
システム開発会社の場合
従業員20名のシステム開発会社。「安くて早い」で勝負してましたが、価格競争で限界でした。
発想を転換しました。
従来:「システムを作る会社」
新定義:「業務改善の伴走者」
開発前に、徹底的に業務を見ます。「本当にシステム化が必要ですか?運用変更で解決しませんか?」って正直に言う。
システム導入後も、定期訪問。「使いにくい部分ないですか?業務が変わったら教えてください」
お客さんが言うようになりました。「あの会社は、うちのことを一番わかってる」
単価は1.5倍になり、紹介も増えました。
中小企業向けチェックリスト
□ 顧客は本当に何を「感じたい」のか?
□ 商品購入の前後で、何が変わるべきか?
□ 「この会社じゃないとダメ」と言われているか?
□ 価格ではなく「関係性」で選ばれているか?
〇発想転換3:「情報」を資産にする
蔦屋が最強だった理由
蔦屋重三郎の最大の武器は何だったか。優れた絵師?流通網?資金?
違います。「情報」です。
蔦屋は知っていました。何が売れるか。誰が次に来るか。市場が何を求めているか。
この情報があったから、リスクを取って投資できた。外れが少なく、ヒット率が高かった。
配送業者の「地図」が資産になった
従業員25名の配送業者。毎日街中を走ってると、気づくんです。
「この時間帯は、このエリアが混む」
「雨の日は、このルートが渋滞する」
「この曜日は、このエリアの荷物が多い」
これ、大手も持ってない地域密着型の情報です。
この業者、情報をExcelに記録し始めました。時間帯別の配送時間、天候と渋滞の関係、季節変動のパターン。
データが溜まると、パターンが見えてきました。
「この条件なら、このルートが最速」
配送効率が20%向上。さらに、この情報を活用して新サービスを始めました。
「最速ルート提案サービス」。地域の運送業者に情報提供。
自社の効率も上がり、情報提供料という新収益も得ました。
製造業の見積もりデータ分析
従業員40名の金属加工業。過去5年分の見積もりデータを分析しました。
・どんな案件の受注率が高いか ・どんな案件で失注しているか ・納期と価格の相関 ・リピート発注のパターン
分析結果から発見がありました。
「通常納期(2週間):受注率50%、単価普通」
「短納期(3日):受注率75%、単価1.5倍」
短納期案件は単価が高くても受注率が高い。なぜなら対応できる業者が少ないから。
戦略を変えました。短納期対応を強みとして前面に出す。設備投資も短納期対応のために。
結果、利益率が大幅改善。同じ仕事量で収益が1.5倍になりました。
BtoB商社の顧客データ活用
従業員35名の専門商社。顧客との商談内容を記録し始めました。
・どんな悩みが多いか
・業種別の傾向
・成約までの接触回数
・リピート購入のきっかけ
データを分析すると、発見がありました。
「初回訪問から1週間以内に2回目の接触:成約率80%」
「1週間空くと:成約率30%」
理由:熱が冷める。「やっぱり今のままでいいか」と思ってしまう。
戦略を設計。初回訪問→3日後→1週間後の3回接触スケジュール。これをシステム化。
成約率が50%から75%に上がりました。
Excel 1枚から始めよう
難しく考えなくていいんです。まず、Excel 1枚。
記録すべき情報(中小企業版)
□ 顧客からの問い合わせ内容とパターン
□ 成約した理由、失注した理由
□ リピート購入・継続契約のきっかけ
□ クレーム内容と対応(パターン化できる)
□ 時期による需要変動
□ 競合との比較で選ばれた理由
これを3ヶ月続けて、月1回30分振り返る。
「何かパターンないかな?」
小さな発見でいい。それを一つだけ試す。効果を見る。繰り返す。
蔦屋重三郎はデジタルツールなんて持ってませんでした。でも情報を記憶し、分析し、戦略に活かした。
私たちにはExcel、Kintone、Notionがあります。蔦屋より圧倒的に有利です。

〇中小企業こそ「蔦屋モデル」が効く理由
なぜ中小企業に蔦屋モデルが向いているのか。3つの理由があります。
理由1:意思決定が速い
大企業は会議と承認に時間がかかる。中小企業は社長が「やろう」と決めたら明日から動ける。
蔦屋も小さな書店から始めました。でも意思決定は速かった。市場の変化に即座に対応できた。
理由2:顧客との距離が近い
大企業は顧客の顔が見えない。中小企業は社長が直接顧客と話せる。
蔦屋も吉原に店を構え、顧客(文化人、商人)と直接対話していました。だから市場のニーズを誰より早く掴めた。
理由3:柔軟に変われる
大企業は組織が大きく、変革に時間がかかる。中小企業は「明日から変える」ができる。
蔦屋も既存ルートを無視して独自流通を作れたのは、小さかったからです。
〇明日からできること
難しく考えなくていいです。まず一つだけ、やってみましょう。
ステップ1:自問する
「うちは本当に何を売ってるんだろう?」
商品?サービス?それとも安心?信頼?課題解決?
答えが見つかったら、社員と共有してください。
「うちは○○を売る会社だ」
ステップ2:Excel 1枚を作る
顧客対応記録。問い合わせ内容、成約理由、失注理由。それだけでいいです。
3ヶ月後、必ずパターンが見えます。
ステップ3:小さく試す
見つけたパターンで、一つだけ戦略を変えてみる。全部変える必要はありません。一つだけ。
効果を測定して、良ければ続ける。ダメなら次を試す。
〇あなたの中にも蔦屋重三郎がいる
蔦屋重三郎は特別な人間じゃありませんでした。最初は資金も人脈も技術もなかった。
持っていたのは「発想を転換する力」だけ。
その力は、学べます。訓練できます。実践できます。
大河ドラマ『べらぼう』を見ながら、自分の事業を重ね合わせてみてください。
令和の蔦屋重三郎は、あなたかもしれません。
さあ、やりましょう。
K&Aプロジェクトでは、中小企業のDX推進と経営革新を支援しています。「どこから始めればいいか」という方、お気軽にご相談ください。一緒に考えましょう。




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