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同じフェラーリ、なぜこれほど違うのか? 「本社の敗北」と「子会社の勝利」が教える組織の真実

〇衝撃の事実:同じブランド、真逆の結果

2025年11月、モータースポーツ界に衝撃が走った。イタリアの名門フェラーリが、世界耐久選手権(WEC)で53年ぶりとなるマニュファクチャラーズタイトルとドライバーズタイトルのダブルタイトルを獲得したのだ。開幕3連勝、シーズン4勝を挙げ、2位のトヨタに75ポイント差をつけての圧勝。ル・マン24時間レースでも3連覇を達成した。

ところが、同じフェラーリのF1チームは2008年以来18年間もタイトルから遠ざかっている。2025年シーズンも勝てない。7度のF1ワールドチャンピオンであるルイス・ハミルトンを獲得しても、ハンガリーGPで「僕は役立たず。フェラーリは僕を変えるべきだ」と自己批判させるほどの惨状だ。


同じフェラーリなのに、なぜこれほど違うのか?


答えは単純だ。組織文化の違いである。本社(F1・マラネッロ)は「大企業病」に蝕まれ、子会社運営(WEC・AF Corse)は健全な組織文化を保っている。これは中小企業経営者にとって、きわめて重要な示唆を含んでいる。


〇WEC 2025:「最悪のハンデ」でも圧勝した理由

性能調整(BoP)による「逆ハンデ戦」

WECハイパーカークラスには、性能調整(BoP:Balance of Performance)という制度がある。速すぎるマシンには重量増加や出力低下のハンデを課し、競争を均衡化する仕組みだ。

2025年開幕3連勝を飾ったフェラーリ499Pは、第4戦ル・マン前に大幅な性能調整を受けた:

  • 重量:プラス12kgの1069kg(クラス最重量

  • 出力:マイナス9kWの480kW(クラス最小出力

つまり、最も重く、最もパワーがない状態で戦わされたのだ。普通なら勝てない。

ところが、フェラーリはそれでも勝ち続けた。マニュファクチャラーズ選手権では203ポイントを獲得し、2位ポルシェに60ポイント以上の大差をつけて独走。ドライバーズ選手権でもフェラーリ勢が1位・2位・4位を独占した。


「耐久王」ポルシェを撤退に追い込んだ

この圧倒的な強さは、ライバルを絶望させた。ル・マン24時間で歴代最多19勝を誇る「耐久王」ポルシェが、2025年10月、WECからの撤退を発表したのだ。

ポルシェのモータースポーツ副社長トーマス・ラウデンバッハは、


「#6カーは完璧なレースをしており本来なら勝てたはず」


とBoPへの不満を漏らした。しかし、ポルシェの売上は前年比15億ドル減少、株価は35%下落、1,900人の人員削減を余儀なくされていた。フェラーリに勝てない状況で、WEC継続を断念したのだ。


なぜ「最悪のハンデ」でも勝てたのか?

答えはチーム力だ。

フェラーリWECチームを率いるアントネッロ・コレッタは「現在のモータースポーツ界における最高の指揮者」と呼ばれる。彼が統括する耐久レース部門は、2023年の参戦開始以来、3年間同じドライバー体制を維持している。

  • 51号車:アレッサンドロ・ピエール・グイディ、ジェームス・カラド、アントニオ・ジョビナッツィ

  • 50号車:アントニオ・フオコ、ミゲル・モリーナ、ニクラス・ニールセン

2025年シーズンについてコレッタはこう語った:

「2025年は、3年連続でFIA WECのトップクラスに参戦することになり、これまでの好成績をベースに、何よりも安定性を高めることを目指しています。2023年はデビューイヤーであり、2024年はチームにとってまだ新しいカテゴリーで進歩を続けなければならなかったからです」

継続性安定性チームワーク。これがフェラーリWECチームの強さの源泉だ。


〇F1:18年間の低迷が示す「大企業病」

「船頭多すぎる」組織構造

一方、F1フェラーリはどうか。

2023年に就任したフレデリック・バスール代表は「船頭が多すぎる」問題を指摘した。ピットウォールに関係者が過多で、意思決定が遅れる。2024年シーズンでは、スペインGPのアップデートが失敗し、旧仕様に戻すという事態が3年連続で発生した。

技術統括だったエンリコ・カルディーレ(20年在籍)は2024年7月にアストンマーティンへ移籍。車両コンセプト責任者デビッド・サンチェス(10年以上在籍)は2023年3月に突然離脱。パワーユニット技術者2名も2025年にアウディへ去った。


ドライバー軽視の伝統

F1フェラーリには「成果が出ないのはドライバーの問題」という空気が伝統的にある。

  • 1991年アラン・プロスト:日本GP後「今のフェラーリは赤いカミオン(大型トラック)だ」と批判→最終戦前に解雇

  • 2020年セバスチャン・ベッテル:シーズン開幕前(5月)に契約解除通告。ベッテル本人「フェラーリでの6年間は失敗だった」

  • 2025年ルイス・ハミルトン:ハンガリーGPで「僕は役立たず。フェラーリは僕を変えるべきだ」。カタールGPで3回連続Q1敗退、「キャリア最悪のシーズン」

7度のF1ワールドチャンピオンですら、このありさまだ。

元ライバルのニコ・ロズベルグ(解説者)は2025年アブダビGPでのハミルトンのクラッシュを見て、こう評した:


「悪夢だ。彼は早くこの車から降りたくてたまらない。チームからの信頼を失い始めている可能性がある。これは恐ろしい事態だ」


唯一の成功例:ジャン・トッド時代(1993-2007)

フェラーリF1が成功したのは、75年の歴史でトッド時代のみである。

ジャン・トッド(チーム代表)、ロス・ブラウン(技術ディレクター)、ロリー・バーン(チーフデザイナー)、ミハエル・シューマッハ(ドライバー)の三位一体体制で、2000-2004年に5連覇を達成した。

しかし、トッド退任後、組織は元の文化に戻った。2007年のキミ・ライコネン以降、18年間タイトルなし。大企業病に回帰したのだ。


〇決定的な違い:組織構造を徹底比較

開発体制の対比

項目:F1(マラネッロ本社):WEC(AF Corse運営)
開発主体:スクーデリア・フェラーリ(GES部門):耐久レース部門(コレッタ率いる)
製造方針:完全内製:(フルコンストラクター):外部委託活用
シャシー:自社製造:ダラーラに委託
風洞:自社施設:ザウバーと提携
運営:フェラーリ直接運営:AF Corseに委託
拠点:マラネッロ本社:ピアチェンツァ(独立)
規模:巨大(1000人超):小規模(専門チーム)

フェラーリはF1で「我々は自動車メーカーであり、パーツを他所から購入してクルマを作るというフィロソフィーがない」と主張する。しかし、WECではダラーラにシャシー製造を委託し、ザウバーと風洞施設を共用している。

哲学の矛盾が、成功と失敗を分けた


人材戦略の対比

項目:F1:WEC
ドライバー:頻繁な変更・解雇:3年連続同じ体制
技術者:流出続く(カルディーレ、サンチェス等):継続性重視
方針:「代わりはいる」:「チームワークこそ最重要」
結果:信頼関係なし:信頼関係強固

AF Corseを率いるアマート・フェラーリ(元レーシングドライバー、1995年設立)は、2002年からフェラーリGTマシンで数々の勝利を挙げてきた。2012年にはWEC初代チャンピオンを獲得。30年の歴史で培った「人を大切にする文化」が、499Pの成功を支えている。


高級時計メーカー「リシャール・ミル」はAF Corseについてこう評価する:

「精密さ、技術力、継続的なパフォーマンス、そして何よりも長年にわたるチームワークを通じた最高のパフォーマンス追求へのコミットメント


組織文化の対比

項目:F1(本社):WEC(子会社運営)
歴史:75年(重圧):30年(挑戦)
意思決定:遅い(船頭多すぎ):速い(独立運営)
失敗への対応:恐れる(1950年代からの病):挑戦する(復帰1年目で優勝)
外部協力:拒否(完全内製主義):活用(ダラーラ、ザウバー)
マスコミ圧力:強大(イタリアメディア):軽微(ピアチェンツァ拠点)

〇なぜ「本社」は病み、「子会社」は健全なのか?

理由1:F1予算制限が生んだ「副産物」

2021年、F1に予算制限(バジェットキャップ)が導入された。上限は年間約150億円。フェラーリやメルセデスのようなトップチームは、年間予算を200〜300億円削減する必要があった。

フェラーリは対応策として、マラネロ内にフェラーリから独立した企業を設立し、余剰人材を出向させた。この独立企業は、ダラーラの仕事を請け負う。

つまり、F1で余った人材→独立企業設立→ダラーラの仕事請負→WEC 499P開発でダラーラにシャシー委託という流れだ。

これは「余剰人材の受け皿」として始まったプロジェクトだった。ところが、本社から離れた独立組織だからこそ、大企業病に染まらず、健全な文化を保てたのだ。


理由2:「ピアチェンツァ」という地理的独立

AF Corseの本拠地はピアチェンツァ。マラネッロ本社から約80km離れている。

この地理的距離が、本社の重圧から解放している。イタリアマスコミの圧力もない。失敗を恐れる文化からも自由だ。「50年ぶりのWEC復帰で初年度優勝」という挑戦ができたのは、この独立性のおかげだ。


理由3:「小規模チーム」の機動力

AF Corseは小規模な専門チーム。F1の巨大組織(1000人超)と違い、意思決定が速い。「船頭多すぎ」問題がない。


コレッタは組織改革について語る:


「我々は組織的な改革をいくつか行っており、現在も続けています。特にマシンの技術的な知識において、決定的な一歩を踏み出すことができたと思っています」


小規模だからこそ、改革が浸透する。大組織では、トッド時代のような一時的改革も、退任後に元の文化に戻ってしまう。


理由4:「ブランド力の罠」からの解放

F1フェラーリは、世界的名門ブランド。引く手あまただ。だから「代わりはいくらでもいる」という空気が生まれる。人を軽視する。

AF Corseは、フェラーリの「子会社」ではあるが、1995年にアマート・フェラーリが設立した独立企業だ。ブランド力に頼れない分、人材を大切にする必然性がある。



〇戦国時代で例えるなら:「本拠と支城」の違い

これを戦国時代で例えてみよう。

フェラーリF1は、織田信長の「安土城」のようなものだ。本拠地、巨大、権威の象徴。しかし、組織が肥大化し、家臣団の派閥争いが絶えず、意思決定が遅れる。本能寺の変で信長が倒れたあと、組織は瓦解した。

フェラーリWECは、豊臣秀吉の「姫路城」のようなものだ。支城だが、独立性が高く、機動力がある。秀吉は姫路を拠点に中国攻めを成功させた。本拠から離れているからこそ、自由に戦略を展開できたのだ。

あるいは、ガンダムで例えるなら:

  • F1フェラーリ=地球連邦軍本部(ジャブロー):官僚的、意思決定遅い、腐敗

  • WECフェラーリ=ホワイトベース隊:少数精鋭、機動力、チームワーク

ブライト・ノア艦長のもと、アムロ・レイをはじめとするクルーは強固な信頼関係で結ばれていた。本部の官僚主義とは無縁だったからこそ、一年戦争を生き抜けたのだ。


〇中小企業への教訓:「規模ではなく文化が勝敗を分ける」

教訓1:「外部リソース活用」は恥ではない

フェラーリF1は「自社で全部作る」にこだわり、開発失敗3年連続。一方、WECは「ダラーラ、ザウバーと提携」で初年度優勝。

中小企業は、無理に内製化せず、得意分野に集中し、外部の専門家と協力すべきだ。「餅は餅屋」である。


教訓2:「継続性」こそが最強の武器

F1は頻繁なドライバー変更で信頼関係なし。WECは3年連続同じ体制で3連覇。

中小企業は、人材を頻繁に入れ替えるのではなく、同じメンバーで信頼関係を築き、継続的に改善すべきだ。「チームワークの力」は、個人の才能を超える。


教訓3:「小規模チーム」の機動力を活かす

F1は1000人超の巨大組織で「船頭多すぎ」。WECは小規模専門チームで迅速な意思決定。

中小企業は、規模の小ささを強みと捉えるべきだ。大企業にできない迅速な意思決定、柔軟な戦略変更が可能だ。


教訓4:「本社から離す」ことの効用

AF Corseはピアチェンツァに拠点を置き、マラネッロ本社から独立。だからこそ、本社の重圧、失敗を恐れる文化から解放された。

中小企業でも、新規事業や挑戦的プロジェクトは、本社から物理的・組織的に距離を置くことで、既存の文化に縛られず成功する可能性が高まる。


教訓5:「ブランド力」は諸刃の剣

F1フェラーリはブランド力が高いがゆえに、人材を軽視し、「代わりはいる」という空気が生まれた。AF Corseはブランド力に頼れない分、人材を大切にする。

中小企業は、ブランド力がないことをむしろ強みとすべきだ。人材を大切にする必然性があり、それが強固なチームワークを生む。


教訓6:「歴史」は資産ではなく負債になりうる

F1フェラーリは75年の歴史の重圧で、変えられない文化に苦しむ。AF Corseは30年の歴史で、挑戦できる文化を保つ。

中小企業は、「老舗」であることに固執せず、常に変化し、挑戦し続けることが重要だ。過去の成功体験に縛られてはいけない。


まとめ:「二つのフェラーリ」が教える組織の真実

2025年、同じフェラーリで真逆の結果が出た。

  • WEC:53年ぶりダブルタイトル、ルマン3連覇、ポルシェを撤退に追い込む

  • F1:18年間タイトルなし、ハミルトンすら苦しむ、開発失敗3年連続

この対比が教える真実は、シンプルだ。


勝敗を分けるのは、規模でもブランド力でも歴史でもない。組織文化だ。


  • 本社(F1・マラネッロ):大企業病、完全内製主義、人材軽視、失敗を恐れる

  • 子会社運営(WEC・AF Corse):健全な文化、外部協力活用、継続性重視、挑戦する

フェラーリF1は世界的名門だが、病んでいる。AF Corseは小規模チームだが、健全だ。

中小企業経営者にとって、この事例は極めて重要な示唆を含む。

「大きくなること」が目標ではない。「健全な組織文化を保つこと」こそが最重要だ。

外部リソースを活用し、継続性を重視し、小規模の機動力を活かし、本社の重圧から解放され、人を大切にし、挑戦し続ける。


それが、フェラーリWECが教える「勝利の方程式」である。


あなたの会社は、「本社病」に苦しむF1フェラーリか、それとも「健全な文化」を保つWECフェラーリか。

2025年の「二つのフェラーリ」は、その答えを明確に示している。


【執筆後記】

フェラーリという同じブランドで、これほど明確に組織文化の違いが結果に表れた事例は稀です。中小企業の経営者にとって、「大企業病は大企業だけの問題ではない」「規模ではなく文化が重要」という教訓は、極めて実践的です。

AF Corseの「チーム力の勝利」こそが、これからの時代に求められる組織の姿だと確信しています。


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