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F1から学ぶ組織改革の本質:レッドブル崩壊とマクラーレン復活が教える「属人経営」の終焉

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〇F1を見ていますか? それ、最高のビジネス教材ですよ

正直に言おう。私はF1が大好きだ。でも、ただの「車好き」として見ているわけじゃない。DXコンサルタントとして、中小企業の組織改革を支援する立場として、F1ほど優れた「組織経営の教科書」はないと確信している。

考えてみてほしい。F1チームは年間予算200億円超、スタッフ1000人以上を抱える巨大組織だ。そして何より重要なのは、2週間ごとに「決算発表」があるという点だ。グランプリの順位という形で、組織の実力が容赦なく数字で示される。言い訳は通用しない。「来年こそは」は許されない。毎レース、全世界に向けて結果が公表される。

これほど厳しいビジネス環境が他にあるだろうか? だからこそ、F1で起きている組織の盛衰は、私たちビジネスマンにとって最高の教材なのだ。

そして今、F1では信じられないことが起きている。2023年まで「最強」と言われたレッドブルが、たった1年で崩壊したのだ。


〇2024年の衝撃:「無敵艦隊」が沈んだ

2023年のレッドブルは本当に強かった。23戦中21勝。マックス・フェルスタッペンは19連勝。もう誰も勝てない。「レッドブル王朝は10年続く」とさえ言われていた。私も正直、そう思っていた。

ところが2024年、状況は一変した。マクラーレンに追い抜かれ、26年ぶりのコンストラクターズ・チャンピオンを許してしまった。フェルスタッペンは辛うじてドライバーズ・タイトルを守ったが、それは彼個人の天才的な走りのおかげだ。チームとしてのレッドブルは、明らかに崩壊していた。

数字を見てほしい。フェルスタッペンは194ポイント獲得した。一方、2番手ドライバーの角田裕毅はわずか9ポイント。その差、185ポイント。

これが何を意味するか、経営者ならすぐわかるだろう。マシンが優秀なのではない。フェルスタッペンという1人の天才が、壊れかけた組織を1人で支えているだけなのだ。


〇「角田が遅い」は本当か? 組織の本質的問題

メディアは角田を批判する。「遅い」「期待外れ」「才能がない」。でも私は、DXコンサルタントとして中小企業を見てきた経験から、これは典型的な「問題のすり替え」だと確信している。

レッドブルの技術者たちは、フェルスタッペン専用マシンを作っている。彼にしか乗りこなせないマシン。彼だけが感じ取れるセッティング。そして当然、角田は苦戦する。マクラーレンのピアストリやノリスのように2人とも表彰台に立つ、ということができない。

これ、どこかで見たことありませんか?

「あの営業マンは使えない」と言われている社員がいる。でも実は、できる社員1人に合わせたシステムになっていて、他の人が使いこなせないだけ。

「新人が育たない」と嘆く会社があるが、実は属人的な業務フローで、ベテラン1人の頭の中にしかノウハウがない。

レッドブルで起きているのは、まさにこれだ。角田が遅いのではなく、組織が壊れている。そしてその壊れ方が、日本の中小企業とあまりにも似ているのだ。


〇カリスマ創業者の死、そして始まった「院政」

レッドブルの崩壊は、2022年のディートリッヒ・マテシッツの死から始まった。彼はレッドブルの創業者であり、絶対的な権力者だった。彼が全てを決めていた。

そして彼が死んだ後、組織は迷走を始めた。権力の空白が生まれ、派閥争いが始まった。クリスチャン・ホーナー代表(当時)とヘルムート・マルコ博士、そしてドライバーのマックス・フェルスタッペンの父ヨスの三つ巴。パワハラ問題も浮上した。優秀な技術者が次々と辞めていった。伝説のデザイナー、エイドリアン・ニューウェイも去った。

そして2025年、ホーナーは解任され、新代表にローラン・メキースが就任した。優秀なエンジニア出身で、実績もある人物だ。

でも、彼に与えられた権限は「レース部門のみ」。マーケティングも、パワーユニット開発も、別の部門が管理する。つまり、マルコ博士の「院政」が続いている。メキースは名目上のトップだが、実権は古参幹部が握っている。

これも、見覚えありませんか?

創業社長が亡くなった後、「顧問」として古参役員が残る。新社長は名ばかり。何も決められない。「先代ならこうした」という声が飛び交い、前に進めない。そして優秀な若手から辞めていく。

レッドブルで起きているのは、日本の中小企業で毎日のように起きている「典型的な崩壊パターン」なのだ。


〇一方、マクラーレンは9年かけて復活した

ここで視点を変えよう。マクラーレンの話だ。

2015年、マクラーレンはどん底にいた。コンストラクターズランキング9位。ホンダとのパートナーシップは完全に失敗し、フェルナンド・アロンソが無線で「GP2エンジン!」と罵倒する始末。完全なる屈辱だった。

そして2024年、マクラーレンは26年ぶりにコンストラクターズ・チャンピオンを獲得した。9年間。どん底から頂点まで、9年かかった。

この9年間に何が起きたのか? それは、日本企業が学ぶべき「組織改革の教科書」そのものだった。


〇最初の一手:独裁者を完全追放した

マクラーレンの最初の決断は、衝撃的だった。2016年から2017年にかけて、37年間マクラーレンに君臨したロン・デニスを完全追放したのだ。

株式25%を全て売却させた。顧問契約もなし。アドバイザーでもない。完全に手を切った。37年間の関係に、完全終止符を打った。

これは簡単な決断ではなかったはずだ。ロン・デニスは伝説的な人物だ。アイルトン・セナの時代も、ミカ・ハッキネンの時代も、ルイス・ハミルトンの時代も、全てロン・デニスが作り上げた。彼なしのマクラーレンなど想像できなかった。

でも、株主たちは決断した。彼を完全に追放しなければ、マクラーレンは前に進めない、と。

そして新CEOにザック・ブラウンを迎えた。彼はマーケティング畑の人間で、技術者ではない。でもだからこそ、組織全体を冷静に見ることができた。


〇「人」ではなく「システム」が問題だ

ブラウンCEOが就任して最初にやったことは、徹底的な診断だった。そして2018年、彼は驚くべき声明を出した。


「パフォーマンス不足の原因は、働いている人たちではない。組織と構造が問題だ。」


これだ。この診断が全てだった。

多くの会社は、成績が悪いと「人」を責める。「あいつが使えない」「この部署が無能だ」「営業が弱い」。でもブラウンは違った。働いている人たちは献身的で勤勉だ。問題はシステムだ、と。

この診断ができる経営者は本当に少ない。たいてい「人のせい」にする。でも、人を替えても問題は解決しない。システムが壊れているからだ。

マクラーレンはこの診断から、本当の改革を始めた。


〇5年後のために、今、投資する

2019年、マクラーレンは大きな決断をした。最新の風洞施設を建設することにしたのだ。予算は数百億円。完成まで4年かかる。つまり、2023年まで効果は出ない。

当時のマクラーレンは苦しかった。成績は悪い。スポンサーも減っている。お金がない。でも、彼らは投資を決断した。

「今は苦しいが、5年後のために投資する」

これができる経営者がどれだけいるだろうか? たいていは「今の売上」「今期の利益」に追われて、将来への投資を先送りにする。そして気づいたら、競合に大差をつけられている。

マクラーレンは違った。彼らは長期計画を立て、それを実行した。

風洞だけじゃない。シミュレーターも刷新した。製造設備も更新した。そして技術部門の組織も変えた。1人の天才テクニカルディレクターに依存する体制をやめ、3人の専門家チーム体制にした。空力、車両コンセプト、エンジニアリング。それぞれの分野に専門家を置いた。

全て、長期計画の一部だった。


〇2023年、転換点が来た

2023年、マクラーレンの長期計画が実を結び始めた。

まず、4年かけて建設した風洞が稼働を開始した。新しいシミュレーターも導入された。そして新代表にアンドレア・ステラが就任した。彼は元フェラーリのエンジニアで、技術に精通している。そしてフェルナンド・アロンソからも「彼は正直で、常識的な判断を下す。常識がステラを定義している」と評価される人物だ。

シーズン序盤、マクラーレンは苦戦した。でもオーストリアGPで大型アップデートを投入すると、状況は一変した。突然、レッドブルに次ぐ速さを手に入れた。中団チームから、一気にトップチームへ。

そして2024年、マクラーレンは完全復活を遂げた。26年ぶりのチャンピオン。9年間の辛抱が、報われた瞬間だった。


〇マクラーレンが勝てた本当の理由

マクラーレンが2024年にチャンピオンになれたのは、ランド・ノリスやオスカー・ピアストリが天才だからではない。確かに優秀なドライバーだが、フェルスタッペンほどの天才ではない。

でも、マクラーレンは2人ともが表彰台に立てる。2人ともがポイントを稼げる。なぜなら、マシンが2人にとって乗りやすいからだ。「特定の1人だけが速く走れるマシン」ではなく、「誰が乗っても速いマシン」を作ったからだ。

そしてこれは、組織全体の力の結果だった。3人のテクニカルディレクターが協力し、最新の風洞で開発し、チーム全体が同じ目標に向かって進んだ。派閥もなく、権力闘争もなく、ただ勝つために全員が力を合わせた。

これが「システム経営」だ。「天才1人」ではなく「組織力」で勝つ。2024年のF1は、それを証明した。


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〇日本企業が直面する「レッドブル症候群」

さて、ここまで読んで、何か思い当たることはないだろうか?

あなたの会社に、「できる社員1人」に依存している部署はないか? その人が辞めたら、部署が回らなくなる人。その人がいないと、誰も決められない人。

創業社長が退いた後、「顧問」として残っていないか? 新社長は名ばかりで、実際の決定は元社長がしている。「先代ならこうした」という声が飛び交う。

20年前のシステムを「まだ使える」と使い続けていないか? 新システムは高い、今は我慢、そう言いながら、気づいたら競合に大差をつけられている。

そして何より、社内に派閥や権力闘争はないか? パワハラやセクハラの噂はないか? 優秀な若手が辞めていっていないか?

もしこれらに一つでも当てはまるなら、あなたの会社は「レッドブル症候群」に罹患している。そしてこのままでは、レッドブルと同じ道を辿る。


〇復活への処方箋:でも、一番難しいのは最初の一手

マクラーレンの復活劇は、完璧な教科書だ。でも、最も難しいのは最初の一手だ。独裁者の追放。院政の終結。権力構造の刷新。

これができないと、全て失敗する。

レッドブルも今、この壁に直面している。メキース新代表は優秀だ。でも彼に与えられた権限は限定的で、マルコ院政が続いている。これでは前に進めない。

あなたの会社も同じだ。元社長を本当に退かせることができるか? 古参役員の派閥を解体できるか? 新リーダーに完全な権限を与えられるか?

これは政治的な問題だ。技術的な問題ではない。誰かの顔を潰すことになる。誰かが職を失う。誰かが権力を失う。だから難しい。

でも、やらなければ組織は死ぬ。


〇「人」ではなく「システム」を変える勇気

次に必要なのは、視点の転換だ。

「誰が悪い」ではなく「何が悪い」と考える。「この社員が使えない」ではなく「なぜこの社員が成果を出せないのか」と問う。

レッドブルの角田が遅いのは、彼の才能の問題ではない。フェルスタッペン専用マシンだからだ。シミュレーターと実車の相関が取れていないからだ。組織として、角田が力を発揮できる環境を作れていないからだ。

あなたの会社の「使えない社員」も、実は「使えないシステム」の被害者かもしれない。属人的な業務フロー、不明確な指揮系統、古いシステム、曖昧な評価基準。

マクラーレンのブラウンCEOの診断を思い出してほしい。「働いている人たちは問題ない。組織と構造が問題だ。

この視点を持てるかどうかが、復活と崩壊の分かれ目だ。


〇長期投資の覚悟:5年後のために今、我慢する

そして最も経営者の覚悟が問われるのが、長期投資だ。

マクラーレンは2019年に風洞建設を決断した。2023年に完成。2024年から効果を発揮。つまり、決断から成果まで5年かかった。

この5年間、マクラーレンは我慢した。成績は良くない。投資ばかりでお金が出ていく。株主やファンから批判される。でも、彼らは計画を信じて実行した。

これができる経営者がどれだけいるか。

たいていは、今期の数字に追われる。「来期には黒字に」「今年中に売上を」。そして長期投資を先送りにする。DXも後回し。設備投資も先送り。人材育成も後回し。そして気づいたら、競合に大差をつけられている。

レッドブルが今、苦境に立たされているのも、これが原因の一つだ。2026年に新風洞を導入予定だが、遅すぎる。マクラーレンは2019年に決断し、2023年に完成させた。7年の差がついている。

あなたの会社のDXは? 設備投資は? 人材育成は? 先送りにしていないか?


〇そして「お家騒動」の即時終結

最後に、最も即効性があり、最も難しいのが、派閥争いの終結だ。

レッドブルの崩壊は、技術的な問題ではない。組織の内部で権力闘争が続いているからだ。ホーナー対マルコ、マルコ対ヨス。そして新代表メキースは、角田を「味方」にしようとしている。これは組織崩壊の典型的な兆候だ。

派閥があると、全員が同じ方向を向けない。意思決定が遅れる。情報が共有されない。優秀な人材が嫌気がさして辞める。

そして何より、エネルギーが内向きになる。「競合を倒す」ではなく「社内の敵を倒す」に力を使う。これほど無駄なことはない。

あなたの会社にも、派閥があるかもしれない。営業部対製造部。本社対支店。ベテラン対若手。

これを終わらせるには、トップの強い意志が必要だ。「全員が同じ目標に向かう。派閥は許さない。」この強いメッセージを、行動で示す。


〇2025年のF1が教えてくれたこと

F1の2025年シーズンは、ビジネスマンにとって最高の教材だった。

レッドブルの崩壊は、「天才1人」に依存する危険性を教えてくれた。カリスマ創業者の死後の混乱、派閥争い、権力の空白、そして優秀な人材の流出。これは日本の中小企業で毎日のように起きていることだ。

マクラーレンの復活は、「システム経営」の力を証明した。独裁者の追放、長期計画、組織改革、インフラ投資。そして9年間の辛抱。これが復活への道だった。

時代は変わった。1980年代、90年代なら、天才1人で勝てた。でも2025年は違う。競争が激しすぎる。技術が複雑すぎる。


「天才1人」では勝てない。「組織力」が必要だ。


そしてこれは、F1だけの話ではない。あなたの会社も同じだ。

「できる社員1人」に依存していないか? カリスマ社長に依存していないか? ベテラン職人に依存していないか?

もしそうなら、その人がいなくなったとき、会社はどうなるのか?


〇レッドブルの未来、そしてあなたの会社の未来

レッドブルは復活できるのか? 正直に言おう。難しいと思う。

なぜなら、最も重要な「権力構造の刷新」ができていないからだ。マルコ院政が続く限り、メキースがどれだけ優秀でも限界がある。中途半端な改革では、マクラーレンのような復活は望めない。

でも、もしレッドブルがマクラーレンモデルを完全適用できたら? マルコとヨスが完全に退場し、メキースに完全な権限が与えられ、5年計画で組織を再構築できたら? 2030年には再びチャンピオンになっているだろう。

そして、あなたの会社はどうだろうか?

マクラーレンの道を選ぶのか、レッドブルの道を進むのか。決めるのは、経営者であるあなただ。

9年は長い。でも、何もしなければ、9年後にはもっと悪くなっている。

今、決断するときだ。「属人経営」から「システム経営」へ。この転換こそが、2024年のF1が教えてくれた、最も重要な教訓だ。

【著者プロフィール】K&A Project LLC 代表パートナー。中小企業のDX・業務改革・組織開発を支援する傍ら、F1と戦国時代の分析を通じて現代ビジネスの本質を探求。


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