第1回 AI選びは「困りごと」から始める

「AIを使った方がいいのは分かっている。でも、種類が多すぎて、どれを使えばいいのか分からない」
最近、経営者の方からいちばんよく聞くのが、この声です。
文章を書くならChatGPTやClaude、Gemini。画像ならMidjourney、動画ならKling AI、音楽ならSuno。業務の自動化ならPower Automateやn8n。ニュースを見るたびに新しい名前が出てきて、比較記事を読めば読むほど迷ってしまう。そんな方も多いのではないでしょうか。
よくあるのが、こんな話です。ある会社の社長が、展示会で「何でもできるAI」を勧められて契約しました。ところが社員は何に使えばよいか分からず、半年後に使っているのは社長ひとり。よくよく話を聞くと、現場が本当に困っていたのは、毎朝届くFAX注文の入力作業でした。その困りごとに、契約したAIは届いていなかったのです。
AIそのものが悪いわけではありません。「何に困っているか」より先に「どのAIを使うか」を決めてしまったことが、つまずきの原因です。
この連載では、その迷いを「製品」からではなく、「困りごと」から解いていきます。
〇製品比較だけでは、なぜ選べないのか
「文章ならこれ」「調査ならこれ」という比較記事は、とても便利です。ただ、それだけで自社に合うAIを選ぶのは難しいのが実情です。理由は三つあります。
一つ目は、用途が重なっていることです。
いまの対話AIは、一つで文章作成も調べものも、資料の要約も表の作成もこなします。「文章用」「調査用」ときれいに分かれてはいません。
二つ目は、変化がとても速いことです。
機能の追加、料金の改定、名前の変更まで、数か月単位で起こります。半年前の比較表が、いまも正しいとは限りません。
三つ目は、比較記事の主語が「製品」であることです。
記事が答えるのは「どの製品が優れているか」です。
でも、経営者が本当に知りたいのは「うちのこの仕事に、何が役立つか」のはずです。問いが違えば、必要な情報も違ってきます。
〇AIを「人の仕事の役割」で整理する
そこでこの連載では、AIを製品名ではなく、人の仕事のどこを手伝ってくれるかで分けて考えます。それが「考える・作る・働く」の3層です。

会社の中の人にたとえると、イメージしやすくなります。
第1層の「考えるAI」は、相談相手や参謀です。
困りごとを聞いて原因を一緒に整理したり、選択肢を並べて比べたり、情報を調べたりします。ChatGPTやClaude、Geminiなどの対話AIが代表例です。手元の資料を読み込ませて整理するなら、NotebookLMのような道具もあります。
第2層の「作るAI」は、制作担当です。
提案書やチラシ、画像、動画、音楽、プログラムなど、形のあるものを作ります。Canva、Midjourney、Kling AI、Suno、開発用のClaude Codeなどがここに入ります。大事なのは、作るだけでなく、あとから直しやすいかどうかです。
第3層の「働くAI」は、日々の実務担当です。
データの転記や集計、通知、帳票の読み取りなど、毎日の作業を代わりに回します。Power Automateやn8n、Zapierなどが、その仕組みの土台になります。ここでは、手順や例外のときの対応をあらかじめ決めておくことが欠かせません。
〇身近な例で考える
3層の違いを、中小企業でよくある場面で見てみましょう。
考えるAIの例:離職対策。
社員の退職が続き、管理者が対話AIに相談します。退職者の勤続年数や部署、退職時に聞いた理由を伝えると、AIは「新人の教育体制」「業務量の偏り」「評価や処遇への不満」などの論点を整理してくれます。管理者はそれをもとに、社員面談で確かめる項目を決めました。AIは答えを出したのではなく、考える道筋を整えたのです。
作るAIの例:新商品のチラシ。
新しい商品やサービスを知らせるチラシを作ります。対話AIでキャッチコピーを10案ほど出し、社内で絞り込んだうえで、Canvaで写真と文字を配置します。外注より早く試作でき、価格や内容の修正も自分たちでできます。
働くAIの例:メール注文の転記。
毎朝30分かけて、メールで届く注文をExcelに入力していた作業を、ワークフローで自動化します。AIが担うのは、書き方がバラバラなメール本文から商品と数量を読み取る部分だけ。転記や担当者への通知は、決まった手順どおりに仕組みが動きます。読み取れなかったメールだけを人が確認するようにしておきます。
同じ「AI活用」でも、相談、制作、日々の処理では、使う道具も、人が関わる場所もそれぞれ違うことが分かります。
〇目的によって、必要な層は変わる
この3層を使うと、「自社にはどこまでのAIが必要か」が見えてきます。

たとえば、自社のPR動画を作りたい場合。対話AIで「誰に、何を伝えるか」を考え、動画や音楽を作るAIで素材を作れば、目的は達成できます。必要なのは第1〜2層までです。
一方、FAXで届く注文を自動で登録したい場合はどうでしょう。まず業務の手順を整理し(考える)、読み取りや登録の仕組みを作り(作る)、毎日の処理を任せる(働く)。第1〜3層のすべてが必要になります。
つまり、すべての仕事で第3層まで導入する必要はないということです。反対に、業務の自動化が目的なのに対話AIだけを試して「AIは業務に使えない」と判断してしまうのも、よくある行き違いです。必要な層が分かれば、試すべき道具と、期待してよい効果の範囲がはっきりします。
〇3層は「順番」ではなく「分類」
ここで、誤解されやすい点を三つ補足しておきます。
習熟度の順番ではありません。
「第1層を使いこなしたら第2層へ進む」という段階ではなく、仕事に必要な役割の分類です。必要な層から使い始めて構いません。
一つの製品が、一つの層だけを担うとは限りません。
対話AIは、相談相手(第1層)にも、文章の作り手(第2層)にもなります。どの層かを決めるのは、製品名ではなく使い方です。
自動化のすべてがAIである必要はありません。
手順が決まった転記や集計なら、従来のRPAやワークフローの方が確実で安く済むこともあります。
製品は、これからも入れ替わっていきます。それでも、「どの仕事に、どの役割が必要か」という整理は変わりません。製品名は、その時点での具体例として押さえておけば十分です。
〇あなたの困りごとは、どの層ですか
最後に、一つだけ考えてみてください。
いま困っているのは、判断ですか、制作ですか、日々の作業ですか?
何から手をつけるべきか分からない → 考えるAI
資料や動画を作る手が足りない → 考えるAI+作るAI
毎日の入力や転記に追われている → 考える・作る・働くAI
この問いに答えられれば、必要なAIの役割が分かり、候補は自然に絞られていきます。
次回は、3層の中でもいちばん身近な「考えるAI」を掘り下げます。AIに相談しても一般論しか返ってこない。その理由と、上手な相談の仕方を一緒に考えていきましょう。
(記事中の製品名は2026年10月時点の一例です。機能や料金、利用条件は各社の公式情報でご確認ください。)





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