沈黙の艦隊に学ぶリーダーシップ論~海江田四郎とイーロン・マスクが示す「破壊的変革」の組織マネジメント
- 吉田 薫

- 9月25日
- 読了時間: 5分

映画「沈黙の艦隊」の海江田四郎艦長とイーロン・マスクには、意外な共通点がある。どちらも既存システムを根本から変える「破壊的リーダー」として、組織を驚異的なパフォーマンスに導いている。彼らの手法を分析すると、変革期の組織運営における重要なヒントが見えてくる。
〇「常識破り」から始まる変革戦略
海江田が1隻の潜水艦で世界に挑んだように、マスクも業界の常識を次々にひっくり返してきた。自動車はガソリンからEVへ、宇宙開発は国家事業から民間ビジネスへ。両者とも「そんなこと無理でしょ」と言われることを、あっさりと現実にしてしまう。
マスクのやってきたことを振り返ってみると、その破壊力がよくわかる。
Tesla:EV市場を年50%成長に押し上げ、既存メーカーを慌てさせる
SpaceX:ロケットの打ち上げコストを10分の1に削減し、宇宙開発の常識を変える
X(旧Twitter):SNSの収益構造そのものに手を突っ込む
海江田の「独立国家やまと」も、マスクの「火星移住計画」も、最初は「現実離れした妄想」に見えた。でも両者とも、それを具体的な行動で実現していく。この実行力こそが、変革型リーダーの最大の武器なのだ。
〇部下を「同志」に変える巧妙な手法
変革型リーダーがすごいのは、普通の従業員を「この人についていけば世界が変わる」と信じさせる能力だ。
海江田が乗組員を説得したやり方と、マスクがTeslaやSpaceXの社員をやる気にさせる方法には、面白いほど似た部分がある。
まず、でかいビジョンをぶち上げる
海江田:「俺たちが世界に真の平和をもたらす」
マスク:「人類を火星に住ませて、地球の危機に備える」
普通なら「何それ、スケールでかすぎ」と引いてしまいそうだが、両者とも本気で言っているから説得力がある。
次に、一人ひとりと向き合う 海江田は乗組員全員と個別に話し、なぜこの任務が必要なのかを丁寧に説明した。マスクも工場に泊まり込んで、現場の作業員と直接やりとりしながら問題を解決していく。
そして、リスクを共有する 海江田の乗組員は文字通り命がけだし、Tesla・SpaceXの社員も業界平均より20%長く働いている。でも不思議なことに、どちらも「やらされ感」がない。むしろ「歴史に残る仕事をしている」という充実感で満たされている。
これが変革型リーダーのマジックだ。きつい仕事を「意義のある使命」に変換してしまう。
〇スピード勝負で先行者利益をがっちり確保
従来の大企業が会議に会議を重ねている間に、変革型リーダーは先に動いてしまう。
自動車業界を見てみよう。
一般的なメーカーの新車開発:5〜7年
Teslaの新モデル開発:3〜4年
この差は大きい。市場に先に出ることで、顧客の認知を獲得し、競合の後追いを余儀なくさせる。
海江田も同じで、各国政府が「どう対応するか」を検討している間に、次々と既成事実を積み重ねた。気がついたら交渉の主導権を握っていたというわけだ。
〇失敗を恐れない文化が革新を生む
変革型リーダーの組織では、失敗に対する考え方が根本的に違う。
SpaceXは最初の3回、ロケット打ち上げに失敗した。普通なら「もうダメだ」となりそうだが、マスクは「失敗は成功への授業料」と割り切って続けた。4回目で成功してからは、成功率90%以上を維持している。
海江田も部下に「前例のないことをやるんだから、失敗して当然」という姿勢で接していた。この結果、乗組員たちは失敗を恐れずに創意工夫を重ね、次々と革新的なアイデアを生み出した。
安全志向の組織では、こうした発想は出てこない。「前例がない」「リスクが高い」で潰されてしまうからだ。
〇諸刃の剣:カリスマ依存の怖さ
ただし、変革型リーダーシップには大きな落とし穴もある。それは「その人がいなくなったらどうなるの?」という問題だ。
Tesla株価の動きを見ていると、これがよくわかる。マスクがTwitterで何かつぶやくと、株価が5〜15%平気で動く。2018年に「Tesla買収を検討中」とツイートした時は、株価が乱高下してSECから怒られた。
SpaceXもTeslaも、マスク以外に同じレベルのカリスマを持つ人がいない。万が一何かあったら、組織が混乱する可能性が高い。
海江田の「やまと」も同じで、艦長の判断にすべてが依存している。これは組織としてはかなり危険な状態だ。

〇一般企業はここを学べ
海江田=マスク型の変革リーダーシップから、普通の会社が学べることは多い。
真似すべきポイント
業界の常識にとらわれない大胆な発想
社会的意義を前面に出した「働く意味」の提供
委員会で時間をかけるより、小さく始めてスピード重視
失敗を責めない、むしろ学習機会として活用する文化
注意すべきリスク
一人のカリスマに依存しすぎない仕組み作り
反対意見も聞ける風通しの良さ
短期の数字と長期のビジョンのバランス
お客さんや取引先とのコミュニケーションをおろそかにしない
〇トヨタが見せる「いいとこ取り」戦略
面白いのは、同じ自動車業界でもトヨタは全然違うアプローチで成功していることだ。
豊田章男さん(前社長、現会長)は、マスクのような破壊的な変革は仕掛けなかった。その代わり、20年前からコツコツとHEV技術を積み上げ、EV、PHEV、FCVと全方向で手を打った。派手さはないけど、結果的にEVシフトの波をうまく乗り切っている。
これは変革型の大胆さと、調整型の安定性を組み合わせた「ハイブリッド戦略」と言えるかもしれない。
〇変革者の孤独と経営判断
映画で大沢たかおが演じる海江田を見ていると、変革者の抱える孤独感がひしひしと伝わってくる。きっとマスクも同じような重圧を感じているのだろう。
世界を変えるのは格好いいが、その代償も大きい。常に批判にさらされ、失敗すれば全責任を負わなければならない。
でも、変化のスピードがどんどん速くなる現代では、何もしないのが一番危険だったりする。現代の経営者には、海江田=マスク型の変革力を部分的に取り入れつつ、組織を壊さないバランス感覚が求められている。
完全コピーは無理でも、「変革のエッセンス」を自分なりに消化して活用する。そんなセンスが、これからの企業競争力を決めることになりそうだ。
次回は、海江田とは正反対のアプローチを取る竹上首相と日産・ホンダの経営陣から、「調整型リーダーシップ」の可能性と限界を探る




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