なぜ退職者の54%が本当の理由を隠すのか?
- 吉田 薫
- 6月11日
- 読了時間: 4分

優秀な人材流出の真因と組織の危険信号
驚くべき事実があります。
エン・ジャパンが2024年に実施した調査によると、退職経験者の54%が「本当の退職理由を会社に伝えなかった」と回答しています。つまり、半数以上の人が本音を隠したまま職場を去っているのです。
さらに興味深いのは、会社に伝えなかった本当の退職理由の第1位が「人間関係が悪い」(46%)、第2位が「給与が低い」(34%)だったことです。しかし、会社に伝えた表向きの理由とは大きく異なっていました。
先日も、ある企業の役員から相談を受けました。
「業績は好調で、離職率も低い。でも何か違和感がある」というのです。会議では活発な議論があり、改善提案も定期的に出てくる。一見すると健全な組織に見えるのに、なぜか閉塞感を感じる。まさに、この調査結果が示す現実そのものでした。
■数字に表れない組織の実態
私たちは組織の健康度を測る際、つい数値で把握できる指標に頼りがちです。
売上高、利益率、離職率、従業員満足度スコア。これらは確かに重要な指標ですが、組織の「本当の姿」を映し出しているでしょうか。
氷山の一角という言葉があります。
海面に見えている部分は全体のほんの一部で、大部分は水面下に隠れています。組織も同じです。表面的な数字や目に見える行動の裏には、もっと大きな「見えない部分」が存在しています。
■沈黙が語るもの
組織における「沈黙」は、実は雄弁に何かを語っています。
会議で意見を求められても、なぜか発言が少ない部署がある
改善提案は出てくるが、なぜか根本的な問題には触れない
飲み会では本音が出るのに、職場では別人のようになる人がいる
「まあ、そういうものですから」という言葉をよく聞く
これらの現象は偶然ではありません。組織には「見えない空気」が存在し、それが人々の行動を無意識のうちに制約しているのです。
■心理的安全性の現実
近年、心理的安全性という概念が注目されています。
Googleの研究で、高いパフォーマンスを発揮するチームの特徴として明らかになったものです。しかし、多くの組織で「うちは心理的安全性が高い」と言われながら、実際には表面的な理解に留まっているケースが少なくありません。
真の心理的安全性とは、単に「話しやすい雰囲気」があることではありません。批判的な意見や、組織にとって耳の痛い話も含めて、本当に必要な声が届く環境があることです。
■見えない声を可視化する意味
では、どうすれば組織の真の健康度を把握できるのでしょうか。
重要なのは、従来の満足度調査では捉えきれない「微細な感情」や「言いにくい本音」を丁寧に拾い上げることです。表面的な質問ではなく、日常の具体的な場面を想定した問いかけが必要になります。
例えば:
改善提案をした時の上司の反応は?
疑問を感じた時、誰に相談しますか?
本当は言いたいけれど言えないことはありますか?
こうした質問を通じて初めて、組織の「見えない部分」が浮かび上がってきます。
■組織変革の第一歩
見えない声を可視化することは、組織変革の第一歩です。問題を明確にして初めて、具体的な改善策を講じることができるからです。
また、調査を実施すること自体が、「組織は真剣に従業員の声を聞こうとしている」というメッセージになります。これにより、少しずつでも「本音で話せる環境」が育まれていくのです。
■まとめ
真に健全な組織とは、表面的な数字が良い組織ではありません。
従業員一人ひとりが、必要な時に必要な声を上げられる組織です。
そのためには、まず現状を正確に把握することから始める必要があります。見えない声に耳を傾け、沈黙の空気を読み取る。それが、持続可能で活力ある組織づくりの出発点なのです。
組織の真の健康度を測る新しい指標として、「見えない声」の可視化に取り組んでみてはいかがでしょうか。そこから見えてくる組織の姿は、きっと新たな気づきをもたらしてくれるはずです。
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