「平等な会社」が、なぜ社員を不公平に扱ってしまうのか――優秀な社員が辞める組織と、「公平」を設計するマネジメント

●はじめに――「全員を同じに扱う」は、本当に公平なのか
10人の部署に、成果の30%を生み出す社員Aがいる。
会社は「社員は平等でなければならない」と考え、給与、裁量、仕事の与え方に大きな差をつけない。業務量も、評価基準も、ほぼ横並び。一見すると、フェアで居心地のよい会社に見えます。
しかし社員Aからすると、疑問が生まれます。
「なぜ自分は30%の成果を出しているのに、ほとんど待遇が変わらないのだろう?」
これは当然の疑問です。Aは仕事を手を抜くか、もっと自分を評価してくれる会社を探しはじめるか、いずれかの選択をするかもしれない。
一方、Aだけを大幅に優遇すれば、残り9人はどう感じるでしょうか。
「結局、この部署はAのためにあるのか」
Aを同じに扱っても不公平。Aを特別扱いしても不公平感が生まれる。
この矛盾はどこから来るのでしょうか。原因のひとつは、多くの組織が「平等」と「公平」という二つの概念を混同していることにあります。
平等とは、全員を同じに扱うことではない。共通のルールを保証することです。
公平とは、全員を同じ結果にすることではない。合理的な違いを認め、説明可能な差をつけることです。
この記事では、この二つの概念を整理しながら、優秀な社員が辞めない組織を設計するためのマネジメントの考え方をお伝えします。
第1章 道路は平等にできている
わかりやすく、道路の話から始めましょう。
今日も道路には、10代の若者から80代の高齢者まで、初心者ドライバーからベテランまで、軽自動車からトラックまで、さまざまな人と車が走っています。身体能力も、判断力も、反応速度も、車両の性能も、まったく違います。
それでも、制限速度や信号、一時停止といった基本的な交通ルールは共通です。これが「平等」。どんな腕のよいドライバーも、どんなに急いでいても、赤信号では止まらなければならない。
しかし、全員に「まったく同じ速度で走れ」とは要求しません。
雨の日には速度を落とす。初心者は慎重に走る。大型車は車間距離を長めにとる。必要であれば初心者マークを貼る。体調がすぐれなければ運転を控える。
つまり、ルールは平等でも、行動まで同じである必要はないのです。
そして腕のよいドライバーが、より遠くへ、より安全に、より速く目的地に到達することも、道路は否定しません。制限速度という共通のルールのなかで、能力の差が結果に反映されることは、むしろ自然なことです。
会社も同じではないでしょうか。
第2章 会社が「平等」にすべきもの、「公平」にすべきもの
では、会社において「平等」にすべきものと、「公平」にすべきものを整理してみましょう。
平等にすべきものとは、会社が全員に対して無条件に保証しなければならないものです。法令の遵守、安全な労働環境、人格の尊重、コンプライアンス、評価を受ける権利、基本的な機会の均等――こうした「ルール」に関わることは、成果の多寡にかかわらず、全員に等しく適用される必要があります。
公平にすべきものとは、貢献や能力に応じて合理的に差をつけてよいものです。仕事の量と質、予算と権限、教育と育成の投資、配置、評価、報酬、利益の配分――これらは「一律に同じ」ではなく「合理的に説明できる差」をつけることが、むしろ正しいマネジメントです。
整理すると、この一文に集約されます。
ルールは平等に、資源は公平に、結果には差があってよい。
全員に100万円ずつ予算を渡すことが平等でも、それが経営として最適とは限りません。成果を生む可能性が高い事業に重点投資することは、経営判断として当然のことです。人の評価や処遇も、本来同じ論理で考えられるべきものです。
第3章 優秀な社員をどう扱うのか
冒頭の社員Aに戻りましょう。
Aを他の社員とまったく同じに扱えば、Aはいずれ転職するかもしれない。しかしAだけルールを変えるわけにもいかない。
ここで重要な視点があります。「特権を与えること」と「貢献への正当なリターンを設計すること」は、まったく別物だということです。
例えば、基本給を共通の制度で決めながら、業績に連動した成果賞与、部門の利益に応じた利益分配、中長期的な貢献に報いる長期インセンティブ、といった仕組みを組み合わせることで、「ルールは同じ、でもリターンは異なる」という設計が可能になります。
一方で、線引きも必要です。
優秀だからルールを破ってよい、ではない。優秀だから生み出した価値を正当に還元する。
これは「えこひいき」ではなく「公平」です。なぜなら、差の根拠が説明できるからです。「あなたは30%の成果を出したので、これだけの報酬になりました」と言えることが、公平の条件です。根拠を説明できない差こそが、組織を腐食させる不公平です。

第4章 日本企業の「管理職」が、公平を難しくしていないか
制度を整えても、それを運用するのは人間です。特に管理職の存在は、公平な組織をつくる上で決定的な役割を果たします。
日本企業の現場を見ると、いまも「仕事は見て覚えろ」という管理職が一定数います。重要な情報は口頭でのみ伝えられ、指示は曖昧で、しかし結果には厳しい。部下が成果を出せなければ「やる気がない」と判断し、「上司に従うことが仕事だ」という空気が漂う。
これは、評価の問題以前に深刻な問題をはらんでいます。成果を出すための条件が、そもそも公平ではないのです。
情報を持っている社員とそうでない社員、指示をきちんともらえた社員とそうでない社員、必要なツールや権限を与えられた社員とそうでない社員――同じ「評価基準」で判断されながら、スタートラインがまったく違う。これは「平等な制度」に見えて、実態は極めて不公平な競争です。
ここで根本的な問いを立てる必要があります。
管理職とは、部下を従わせる人ではない。
では管理職とは、何をする人なのか。
第5章 マネージャーとは「経営資源を預かる人」である
私がかつて在籍した会社では、管理職の定義を大きく見直した組織構造をとっていました。係長・課長といった中間管理職を「管理職」から切り離し、次のような構造に再設計したのです。
リーダー(旧来の係長・課長相当)=実務プレイヤー
マネージャー(経営資源を預かる人)=経営側
シニアマネージャー(部門統括)
ディレクター(経営)
この構造のポイントは、リーダーがマネージャーに直属することで、従来の「係長→課長→部長」という複雑な階層が省略されている点です。リーダーはマネージャーに直接アクセスできるため、情報の滞留や意思決定の遅れが大幅に減りました。
そして、マネージャーに与えられた役割は明確でした。人・金・時間・情報・予算という経営資源を預かり、最適に配分して成果を出すこと。
予算の執行であれば、リーダーからマネージャーへの一度の意思決定で完結します。「承認のための承認」に費やされるエネルギーが消え、リーダーは本来の仕事に集中できる。
この経験から、私は管理職の本質についてこう考えています。
管理とは、人を統制することではない。限られた経営資源を配分することである。
マネージャーは「上からの命令を下に伝える伝言係」ではなく、「チームの成果を最大化するために資源を動かす経営者」でなければならない。
第6章 だから管理職にも「ルール」が必要になる
公平な会社を設計しようとしても、マネージャーが属人的な判断で資源を動かせば「えこひいき」になります。「あの部署だけ予算が多い」「あのマネージャーに気に入られた人だけが昇進する」――こうした不満が生まれるのは、マネージャーの行動基準が曖昧なことに原因があります。
だからこそ、マネジメント基準が必要です。
例えば、こうした行動規範をマネージャーに求めることが考えられます。
「見て覚えろ」を禁止する。仕事の手順と期待値は明示して伝える
重要な指示・決定は必ず記録する
目的・期限・期待成果を明確にしてから業務を任せる
評価基準を事前に示し、評価後にフィードバックする
成果に必要な情報・権限・ツールを提供する
責任の大きさに応じた権限を与える
そして最も重要な一点をマネジメント基準に加えるとすれば、これです。
成果を要求するなら、成果を出せる条件を提供することも、マネージャーの責任である。
これは、部下への優しさではありません。経営として当然の論理です。出発条件を揃えずして、結果だけを評価することは、公平でも平等でもない。
第7章 公平が機能しているか、どうやって測るか
制度を整え、マネジメント基準を定めた。しかしそれで終わりではありません。制度が紙の上にあるだけで、現場では機能していないケースは珍しくありません。
では、組織の公平性は何で測るか。私がおすすめしているのがeNPS(従業員推奨度スコア)です。
eNPSは、通常の社員アンケートの最後に一つだけ質問を加えるシンプルな方法です。
「この職場を友人・知人に『働く場所』として、0〜10点でどの程度すすめたいと思いますか?」
9〜10点をつけた社員(推奨者)の割合から、0〜6点をつけた社員(批判者)の割合を引いた数値がeNPSです。
重要なのは、この数値を部署別・時系列で追うことです。例えば、こんなデータが出たとします。
部署 | eNPS |
製造A | +22 |
製造B | +17 |
営業 | +25 |
管理 | +12 |
製造C | −38 |
製造Cのスコアが突出して低い。ならば、製造Cに何が起きているのかを詳細調査します。マネージャー、業務量、評価、情報共有、人間関係、報酬……原因はさまざまです。
ここで大切な位置づけをはっきりさせておきます。
eNPSは、原因を診断する道具ではない。組織の異常を発見するセンサーである。
体温計が「熱がある」ことを教えてくれるように、eNPSは「この部署に問題がある」ことを教えてくれます。熱の原因(ウイルスか細菌か)は、医師が別途診断するように、eNPSの低下の原因は別途調査が必要です。しかしセンサーなしに問題を発見することは、熱を計らずに病気に気づくようなものです。
最終章 「公平な会社」とは、全員が同じ会社ではない
最初の問いに戻りましょう。
優秀な社員Aを「平等に扱う」ことと「公平に扱う」ことは、まったく異なります。公平に扱うとは、Aの貢献を正当に評価し、説明できる根拠をもって報いることです。それは、他の9人を軽んじることとも違います。全員が共通のルールのなかで、それぞれの貢献に応じたリターンを得る。それが公平な組織です。
理想的な組織は、次のような循環を持つ組織ではないでしょうか。
会社が平等なルールを保証する
マネージャーが公平に資源を配分する
社員が異なる能力を最大限に発揮する
成果に応じて利益が還元される
eNPSなどで組織の歪みを継続的に検知する
問題があれば制度・マネージャー・資源配分を修正する
この循環が回り続けることで、組織は「公平」を自己修正し続けることができます。
最後に、この記事全体を通じて浮かび上がった言葉で締めくくります。
平等とは、違いをなくすことではない。 公平とは、違いを認め、その違いを合理的に説明できることである。 そしてマネジメントとは、その違いを組織の力に変える仕事である。
「全員を同じに扱う」ことに逃げず、「違いを正しく扱う」設計に向き合う。それが、優秀な社員が長く働き続けたいと思う組織を作る、最初の一歩ではないかと思います。
本記事は、中小企業における組織・人事マネジメントの改善を支援するコンサルタントの視点から執筆しています。





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