「“もう任せられる人だから”が、モチベーションを下げるとき」― 主観と事実のズレが生む、“先輩ポジション”社員の見えざる能率低下 ―
- AKI IMAIZUMI

- 1 日前
- 読了時間: 5分

4月は、新しい人材を迎え、組織が動き出す季節です。多くの企業では、新入社員や異動者への支援に意識が向きます。
一方で、その変化を現場で支えているのが、役職のつかない“先輩ポジション”の存在です。新人にとって最も身近で、業務だけでなく組織の流儀を教えてくれるキーパーソン。
しかしこの層に今、静かなモチベーション低下が起きやすいことは、あまり注目されていません。そして、彼らの状態が、新人の安心感や定着にも影響する点は見過ごせません。
■ 「任せているつもり」が生む、関係性のズレ
先輩ポジション社員は、次のような状況に置かれやすい存在です。
新人対応は正式な業務ではなく、暗黙のうちに期待されることが多い
業務は「一人でできて当たり前」と見なされる、あるいはそう感じやすい
上司や組織としては、
「もうある程度は任せられるから、あえて細かく見ない」
「困れば相談してくるはずだから、過度に声はかけない」
という“信頼”のつもりの関わりであっても、
受け手にとっては、
「関わりが減る=期待されていないのでは」
「相談すると、仕事ができないヤツだと思われるのでは」
といった“別の意味づけ(主観)”として受け取られることがあります。
この主観と事実のズレが、モチベーション低下の1つの背景になり得ます。
■ 「もう●●だから」が生む、見えない前提
そのズレを象徴するのが、「もう●●だから」という言葉です。
「もう先輩だから大丈夫だよね」
「もうベテランだから任せているよ」
「もう一々細かいことは確認しないから、自分で考えてやってね」
これらは一見、期待や信頼の表現です。
しかし同時に、
「一人でできて当然」
「完璧にできて当たり前」
という無意識の前提(=主観)を含んでいます。
その結果、
相談する=仕事ができないと評価される恐怖感を持つ
↓
自分の中で抱え込む
↓
周囲との心理的距離が広がる
といった、静かな孤立が生まれやすくなります。
■ 周囲が気づきたい「小さなサイン」
この層の変化は表に出にくく、“突然の退職”のような形で周囲を驚かせることもあります。
大切な人財を失わないためには、“変化”に目を向けることが重要です。
発言や提案が減る
関わり方が事務的になる
「大丈夫です」と自己完結が増える
任されたことはやるが、踏み込まない
また、在宅勤務やチャット中心の環境では、
本人の書き込みやリアクションが減る、あるいは遅くなる
上司からのコメントが少ない状態が続く
といった変化も見逃せません。
これらは、仕事や組織との心理的距離が広がっているサインかもしれません。
■ 先輩ポジション社員が養いたい力
変化への戸惑いや、困難を抱えた時には、
“主観”と“事実”を分けて捉えることが、ひとつの鍵になります。
例えば、上司からの声がけやチャットが減ったとき、
「期待されていないのでは」と捉えて意欲が下がる
「一人でできて完璧に当たり前と思われている」と感じ、相談を控えたり、ミスを隠す
「自分だけ取り残されている」と感じ、周囲の動きに意識が向きすぎる
といったことが起こると、本来の実力を発揮できない状態に陥る危険性があります。
同じ出来事でも、その意味づけ(主観)によって、向けられるエネルギーは大きく変わります。
私たちは環境の変化に敏感であり、出来事に意味づけをすること自体は自然な反応です。
ただし、その解釈が自分を苦しくさせて、業務遂行を妨げているときには、
出来事(事実)と解釈(主観)をいったん切り分けること
↓
別の見方で捉え直す(リフレーミング)こと
が有効です。
こうした力は自然に身につくものではないため、セルフケアやストレスコーピングとして学ぶ機会を持つことも有効です。
■ 上司に求められる関わり方
この“主観と事実のズレ”は、上司側にも起こり得ます。
「もう後輩も入ってきたのだから、自律的に動くだろう」
「もう一々声をかけなくても、困ったら相談してくるだろう」
これらもまた、上司側の主観です。
この主観が部下に伝わり、心理的な距離を広げないために重要なのは、
① 見えている事実を言葉にする(承認)
② 任せている意図を伝える(期待)
③ 相談できる余地を残す(余白)
を言葉で伝えることです。
例えば、
「あなたは困った時には相談してくれるから、私は安心して任せられているよ」
「あなたの役割が増えている分、負担もあると思うから、遠慮なく声をかけてね」
こうした言葉は、“放置”ではなく“信頼”として伝わります。
■ “任せる”は、“関わらない”ではない
役割を与えることはエンパワメントです。しかし、関わりが伴わなければ、孤立を生むこともあります。
だからこそ大切なのは、任せながら、関わり続けること。
このバランスが、先輩ポジション社員のモチベーションを支えます。
■ おわりに
変化の季節は、成長の機会であると同時に、見えにくい負担が生まれる時期でもあります。その負担に静かに向き合っている人たちに、少しだけ光を当てること。
そして、変化に伴う出来事にどんな意味づけ(主観)をしているかに目を向けること。
任せながら関わり続けることが、モチベーション低下を防ぐだけでなく、自律的行動の促進にもつながります。
変化に適応するためのこうした工夫は、セルフケアやラインケアの研修を通じて、少しずつ身につけていくことができます。
弊所では、現場の実態に応じて、若手・中堅社員のセルフケアや、上司の関わり方をテーマにした研修・ワークショップの設計も行っております。
ご関心がございましたら、貴社の状況に合わせてご提案いたしますので、
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